宮崎駿監督の発言集、「折り返し点」を読んでいます。「出発点」も大変示唆に富んだ言葉に満ちていましたが、今度の本も読みごたえ十分です。
しかしなんと頭の回転の速い人でしょうか。様々なことに興味を持ち、気になれば資料を取り寄せて調べあげていますね。
思わず見ようか迷っていた「崖の上のポニョ」を観にいってしまいました。 動く絵を楽しむ原点に立ち返った作品でとても良かったです。
この本を読んでいて確信しましたが、宮崎監督の作品の質が高いのは、絵や動きの質の高さも勿論のことながら、
一見なんていうことのない、ひとつひとつの設定やシーンの背景に、宮崎監督が常日頃考えている思索の裏打ちがあるからでしょう。
だからこそ、一見単純なストーリーの中から、さまざまな伏線に導かれていろいろな所へ連れて行かれ、(例えば)サン=テグジュペリや
黒岩涙香を読んでみたくなったりします。一見、子供向けと思われるような作品ですら、何回繰り返してみても、新しい発見があります。
これだけ、作品の背景としての作家の思索を知りたくなる芸術作品・作家には、なかなかお目にかかれない気がします。
私などは、“芸術家のはしくれ”と名乗ることさえも恥ずかしくなります。
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『アシタカ(もののけ姫)の行動は、ほとんどが自分の中に生まれてしまった憎しみをどうやってコントロールするかということに尽きるんです。
それは、今の日本の子供たちが、自分の内に潜んでいる暴力にとまどっているのと同じです。
なぜ自分はいらだち、人を憎み、友人ができなかったりするんだろうというふうにね。
(略)
暴力は人間の属性の一つで、初めから人間が持っているものです。でもコントロールできない人には、非常に不幸なことになる。
近頃は、他人すべてを憎む人たちが増えてきています。その憎しみをコントロールして、溶かすことが人間に出来るだろうかということが、
この映画の製作動機の一つでした。
ですからバイオレンス問題をこの映画に入れることにおいて、全くためらいはありませんでした。そして僕は自信を持って言います。
「もののけ姫」を観て、子供たちが真似をして人を傷つけることは絶対にないと。(1998年)』